「山岳ステージなら軽量バイクだろ」
……まあ、そう思うよね。普通はそうだ。
自転車乗りなら一度はやる。
フレームを100g軽くして、ホイールを50g軽くして、ボトルケージまで軽量化して、「あと30g削れないかな」なんてやってる。
その一方で、ワールドツアーのプロは何をやっているか。
山岳でもエアロロードに乗っている。
おいおい、話が違うじゃねえか。
軽さはどこ行ったんだ。
というわけで今回は、ツール・ド・フランス2025の機材選択を材料に、「軽量=速い」「エアロ=平坦向け」というロードバイクの古い常識が、なぜ崩れ始めているのかを考えてみたい。
しかも、単なる「このバイクかっこいい!」という機材紹介じゃない。
見るべきなのは、プロが何に乗ったかではなく、なぜそれを選んだのかだ。
ここを間違えると、100万円のフレームを買って、近所のコンビニまでママチャリに負けるという、非常に切ない事態になる。
デルトロが山岳で選んだColnago V5RS




まず注目したいのが、Isaak Del ToroとColnago V5RSの組み合わせだ。
デルトロは山岳でV5RSを使用している。
ここで重要なのは、V5RSが単純に「最もエアロなバイク」ではないということ。
Colnagoには、よりエアロ性能を追求したY1RSがある。
つまり、
空力だけを最優先するならY1RS。
ところがデルトロが選んだのはV5RSだった。
この時点で、我々は一つの思い込みを捨てた方がいい。
「エアロ性能が高いバイクほど、常に速い」
これは正しくない。
正確には、
「その走行条件において、空力以外の性能を含めて最も速いバイクが速い」
ということだ。
似たような話に、「軽いホイールなら絶対速い」というのもある。
じゃあ軽いだけで勝てるなら、プロは全員風船みたいなホイール履いてますよ。
そうならない。
COLNAGO ( コルナゴ ) ロードフレーム V5Rs DISC Frame Set ( ブイファイブ アールエス フレームセット ) VRWC 485S (身長目安165cm前後)
COLNAGO ( コルナゴ ) ロードフレーム V5Rs DISC Frame Set ( ブイファイブ アールエス フレームセット ) SDM5 485S (身長目安165cm前後)
【ワイズロードオンライン】
V5RSとY1RSの違いは「速い・遅い」ではない

V5RSとY1RSを考えるとき、「どっちが上?」という見方をすると話がおかしくなる。
見るべきなのは性能の配分だ。
Y1RSは空力性能を強く意識したエアロロード。
一方、V5RSは軽量性、剛性、反応性、登坂性能などを高い次元でまとめたレーシングバイクだ。
つまり、
Y1RS=空力方向に振った最適解
V5RS=総合性能を重視した最適解
という違いとして考えた方が分かりやすい。
そして山岳では、この差が効いてくる。
COLNAGO ( コルナゴ ) ロードフレーム Y1RS フレームセット ( ワイワンアールエス ) YSWC [ White / WC color stripes ] M ( 身長目安175cm前後 )
「空力4%差」をそのまま信じちゃいけない

ここは上級者なら特に重要だ。
仮にV5RSがY1RSより空力性能で約4%劣るとして、
「じゃあV5RSは4%遅いんだな」
……とはならない。
そんな単純な計算なら、自転車メーカーの開発担当者はみんな泣いている。
実際の走行抵抗は、空気抵抗だけでは決まらない。
空気抵抗は速度依存性が非常に大きい。
一方、登坂では速度が低下するため、同じ空力差でも、その絶対的なタイム差は高速巡航時とは意味が変わってくる。
さらに山岳では、
- 車体重量
- ライダー重量
- 勾配
- 出力
- パワーウェイトレシオ
- 加速性能
- 勾配変化
- ダンシング時の反応性
- コーナー立ち上がり
などが絡んでくる。
genui{“physics_motion_forces”:{“type_id”:”INCLINED_PLANE_ACCELERATION”,”locale_override”:”ja-JP”}}
急勾配になればなるほど、重量の影響は無視できなくなる。
ただし、ここでも勘違いしちゃいけない。
山岳=ずっと10%の坂を一定速度で登る
なんてレースはない。
そこがポイントだ。
山岳ステージは「登りだけ」じゃない

ツールの山岳ステージを考えてみよう。
スタートして、
平坦を走る。
そこから登る。
下る。
また登る。
集団で位置取りする。
高速コーナーを抜ける。
勾配が緩んだ瞬間にアタックする。
最後にまた登る。
……これを何百kmもやる。
つまりプロが機材を選ぶとき、
「この坂で一番軽いか?」
だけを見ているわけじゃない。
「ステージ全体で最もタイムを失わないか?」
を考えている。
ここがホビーライダーとの大きな違いでもあり、プロ機材を見る面白さでもある。
下りと平坦を考えると、エアロロードは山でも無駄にならない

山岳ステージには下りがある。
しかもプロの下りは速い。
一般ライダーが「怖いから40km/hくらいで……」なんて言っている横を、プロは平然と突っ込んでいく。
いや、平然としているように見えるだけで、たぶん本人たちは全然平然としてない。
そこで効いてくるのが空力だ。
速度が上がれば、空気抵抗の存在感が一気に大きくなる。
つまり、
登りでは軽量性
高速区間では空力性能
という異なるメリットを、同じステージの中で使い分けることができる。
だから「山岳だからクライミングバイク」という発想そのものが、少し古くなってきている。
そして登場するBianchi Specialissima
ここで、さらに面白い事例がある。
Bianchiの新型Specialissimaだ。
Specialissimaは、ビアンキのフラッグシップレーシングモデル。
軽量性を武器にしながら、空力性能や剛性、快適性まで高いレベルでまとめた、いわば現代的なオールラウンドレーシングバイクだ。
ところが――
発表された新型Specialissimaを、プロチームが実戦で使わない。
いや、メーカーからしたら「ちょっと待て」となる。
新型を発表した。
最新技術を投入した。
フラッグシップだ。
なのに現場は旧型Oltre。
これは面白い。
そして、ここから「新型=実戦最速」という考え方にも疑問が出てくる。
BIANCHI ( ビアンキ ) ロードバイク SPECIALISSIMA RC DURA-ACE DI2 ( スペシャリッシマ RC デュラエース DI2 ) カーボン/チェレステメタリック/チェレステ 55 ( 身長目安175cm前後 )
メーカーの最速と、プロの最適解は違う

メーカーが発表する性能データは重要だ。
しかし、それはあくまで一定の試験条件における性能だ。
実際のレースでは、
フレーム単体では走らない。
ここがものすごく重要。
実際には、
フレーム
+フォーク
+ハンドル
+ホイール
+タイヤ
+空気圧
+コンポーネント
+ボトル
+サイコン
+ライダーのポジション
というシステムで走る。
さらにプロなら、
- ライダーの出力特性
- 体重
- コース
- 風向
- 路面
- チーム戦術
- 集団内での走行
- 下りの速度
- スプリント
- アタックへの反応
まで含めて考える。
だから、
フレーム単体で10点満点だから、実戦でも10点満点
とは限らない。
ここがカタログとレースの違いだ。
エアロロードとクライミングバイクの境界が消え始めた

ここが今回の本丸だ。
昔のロードバイクは、かなり分かりやすかった。
エアロロード
- 重い
- 剛性が高い
- 空力性能が高い
- 平坦が得意
クライミングバイク
- 軽い
- 登坂性能重視
- シンプル
- 山岳向き
ところが現在は、この境界線がどんどん曖昧になっている。
最新のエアロロードは軽い。
そして軽量ロードは空力性能も高い。
しかも、
- ワイドタイヤ対応
- 内装ケーブル
- エアロハンドル
- エアロシートポスト
- 高性能カーボン積層
- CFD解析
- 風洞試験
などを組み合わせてくる。
つまりメーカーが目指しているのは、
「軽いエアロロード」
というより、
「エアロ性能を犠牲にせず、どこまで軽くできるか」
という方向になっている。
6.8kgという数字がロードバイクを面白くしている

そして、ここにUCIの6.8kg規定が絡んでくる。
プロレースでは、完成車重量に一定の下限がある。
これがロードバイク設計に与えている影響は大きい。
メーカーが技術的に6.8kgを大きく下回るフレーム・コンポーネントを作れるとしても、プロレースでは単純に「軽ければ軽いほどいい」とはならない。
だったら、その重量の余裕を別の性能に使えばいい。
例えば、
空力性能
剛性
耐久性
振動減衰
タイヤクリアランス
などだ。
これが現代ロードバイクの「全部入り化」を後押ししている。
6.8kg規定がなくなったらどうなる?

ここは未来の話として面白い。
もしUCIが重量規定を大幅に緩和したらどうなるか。
おそらくメーカーは、さらに大胆に軽量化する。
そうなれば、
超軽量クライミングバイク
と
エアロロード
の性能差が再び大きくなる可能性がある。
つまり現在の「オールラウンド化」は、技術だけでなく、レギュレーションとの関係でも成立していると考えられる。
ここがロードバイクという競技の面白いところだ。
メーカーが勝手に進化しているわけじゃない。
UCIのルールとメーカーの技術競争が、お互いに自転車を進化させている。
「空力性能4%劣る」より大事なもの
ここで、もう一度V5RSに戻ろう。
仮にY1RSの空力性能が優れている。
だからといって、
Y1RS > V5RS
と単純に順位をつけてしまうと、プロの機材選択の意味が見えなくなる。
なぜなら、ロードレースは風洞試験室で行われる競技じゃないからだ。
レースでは、
速く走るために必要な性能の組み合わせ
が重要になる。
空力性能が少し劣っても、
- 軽い
- 登りで有利
- 加速しやすい
- 勾配変化に対応しやすい
- ライダーが扱いやすい
のであれば、その選手にとってはV5RSが速い可能性がある。
これが「総合性能」という言葉の正体だ。
本当に見るべきは「フレーム重量」ではない
ここまで読んで、じゃあ軽量バイクを買えばいいのか?
違う。
ここでまた罠がある。
フレーム重量だけを見るな。
ロードバイクはフレームだけで走らない。
例えば100g軽いフレームを買ったとしても、
- ホイールが重い
- タイヤが重い
- 空気圧が合っていない
- ポジションが悪い
- タイヤの転がり抵抗が大きい
- ライダーがエアロ姿勢を維持できない
なら、その100gに大金を払った意味がどこまであるのか。
「フレーム100g軽くなりました!」
「おお!」
「価格は30万円アップです!」
「……帰ります」
まあ、そうなる。
プロがV5RSだから、自分もV5RS?
ここでホビーライダーに一番伝えたいこと。
プロの機材を、そのまま自分に当てはめないこと。
デルトロがV5RSを選んでいる。
だからV5RSが悪いわけじゃない。
むしろ素晴らしいレーシングバイクだ。
でも、
デルトロの脚と自分の脚は違う。
ここ、ものすごく大事。
プロは、
- 高いFTP
- 高い5分出力
- 高い20分出力
- 高い巡航速度
- 高いコーナリング速度
- レース特有の加減速
で走っている。
我々ホビーライダーは、そこまでの出力も速度も出ない。
……いや、出る人もいる。
そういう人はこの記事を閉じて山へ行ってください。
ホビーライダーが見るべきは「自分の速度域」
ここからが本当のバイク選びだ。
例えば、平坦を40km/h以上で走る時間が長いなら、空力性能の重要性は高くなる。
逆に、峠を中心に20km/h以下の速度域で登る時間が長いなら、重量やパワーウェイトレシオの重要性が増してくる。
つまり、
「何kgだから速い」
ではない。
「自分がどの速度域を、どれだけ走るのか」
を見る。
これが上級者の機材選びだ。
じゃあ、最速のロードバイクって何なんだ?
結論。
そんなものはない。
正確には、
「条件を限定しなければ、最速のロードバイクは存在しない」
ということだ。
平坦ならエアロ。
急勾配なら軽量性。
高速下りなら空力。
荒れた路面ならタイヤと快適性。
クリテリウムなら加速とハンドリング。
ロングライドなら空力だけでなく疲労との戦い。
つまり最速という言葉には必ず、
「どこで?」
「誰が?」
「何km/hで?」
「どんな路面で?」
という条件が付く。
そしてロードバイクは「全部入り」の時代へ
現在のトップグレードを見ると、この流れは明確だ。
メーカーは、
エアロ性能を上げる。
でも重量は増やしたくない。
軽量化する。
でも剛性は落としたくない。
剛性を確保する。
でも乗り心地は悪くしたくない。
タイヤを太くする。
でも空力性能は落としたくない。
……メーカー開発者、寝てるのか?
と思うくらい要求が多い。
でも、それをカーボン技術と設計技術でまとめようとしている。
だから現代のロードバイクは、
エアロロードなのかクライミングバイクなのか分からないくらい、全部入っている。
これが今のトレンドだ。
まとめ――プロから学ぶべきなのは「何に乗るか」ではない
デルトロがV5RSを選んだ。
Specialissimaが発表された。
プロが旧型Oltreを使った。
山岳でもエアロロードが走る。
一見すると、全部バラバラの話に見える。
でも、実は一本につながっている。
それは、
ロードバイクの速さは、単純な重量や空力性能だけでは決まらない
ということだ。
昔なら、
軽い=登り
エアロ=平坦
で話は終わった。
今は違う。
エアロ
重量
剛性
タイヤ
ホイール
ポジション
ライダーの出力
コース
これらを全部合わせて、初めて「速いバイク」になる。
だからプロの機材を見るとき、
「デルトロがV5RSに乗ってる!俺も買おう!」
じゃない。
見るべきなのは、
「なぜデルトロはV5RSを選んだのか?」
こっちだ。
そして自分のバイクを見るときも、
「このバイクは何kgだ?」
だけじゃない。
「俺の脚、俺の速度域、俺のコースで、本当にこのバイクが最適なのか?」
ここまで考える。
それが上級者の機材選びだ。
ロードバイクは高い。
フレームだけで車みたいな値段がする。
ホイールを替えればまた金が飛ぶ。
タイヤを替えればまた金が飛ぶ。
最終的には自転車より財布の方が軽くなる。
だからこそ、**「何を買うか」より「なぜそれを買うのか」**を考えた方がいい。
ツール・ド・フランスのプロ機材は、我々には高すぎる。
でも、その情報を見るのはタダだ。
だったら、プロが何を選び、なぜそれを選んだのか。
そこから自分のバイク選びを考えてみる。
軽量か、エアロか。
その二択で悩む時代は、もう終わりつつある。
これからのロードバイク選びは、
「自分にとって、どの性能のバランスが一番速いのか」
を考える時代だ。
……まあ、そう言いながら新しいフレームが出たら欲しくなるんだけどね。
自転車乗りなんて、そんなもんです。



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