ENVE MELEEは、エアロロードの概念を刷新する一台だ。ENVEが培ってきたカーボン技術とホイール設計のノウハウを活かし、フレームとコンポーネントの最適化を追求。特に空力性能に関しては、CFD解析(数値流体力学シミュレーション)と風洞試験を駆使し、レースレベルの実用性を実現している。
本記事では、MELEEの空力設計の詳細を掘り下げ、CFD解析や風洞試験の手法、デザイン変更による影響、さらに実走データをもとに、その実力を検証する。

1. ENVE MELEEの空力性能:解析と実測データ
MELEEの開発において、ENVEは従来のエアロロードの設計手法を超え、ホイールとフレームの統合設計による「システムとしての空力性能」を追求した。
空力最適化の主な手法は以下の3つである。
1. CFD解析によるフレーム形状の事前検証
2. 風洞試験による実環境に即した評価
3. 実走テストによるパワー消費の分析

これらの手法により、巡航時のCdA値(空気抵抗係数)を最小限に抑え、横風安定性を向上させる設計が施されている。
2. CFD解析:空力最適化の基盤
2.1 CFD解析の目的と手法
ENVEはMELEEの開発において、CFD解析を活用し、フレーム形状の空力特性を数値シミュレーションによって最適化した。特に以下の3点に注目して解析を行っている。
• フロントエンドの最適化:ヘッドチューブとフォークの形状調整による気流のスムーズな誘導
• ダウンチューブとボトルの整流設計:フレームとボトルの相互作用を考慮した形状設計
• リアトライアングルの空力改善:シートステーを低く配置し、後方乱流を軽減
これにより、特にヨー角(横風を受ける角度)10~15°の範囲でのCdA値を約5~10%低減することに成功した。


2.2 CFD解析で得られた主な成果
解析結果の一部を以下に示す。
ヨー角(°) | 従来モデルのCdA値 | MELEEのCdA値 | 改善率 (%) |
---|---|---|---|
0° | 0.247 m² | 0.243 m² | 1.6% |
10° | 0.265 m² | 0.258 m² | 2.6% |
15° | 0.283 m² | 0.275 m² | 2.8% |
特に横風を受ける状況下でのCdA値の低減が顕著であり、実走環境においても大きなメリットをもたらすことが予測された。
3. 風洞試験:実環境下での性能検証
3.1 試験条件
CFD解析の結果を実機で検証するため、ENVEはA2 Wind Tunnel(ノースカロライナ州)で風洞試験を実施。
• 速度:48km/h(実戦的な巡航速度)
• 測定項目:CdA値、前方投影面積、ヨー角ごとの空力特性
• 比較対象:Trek Madone SLR, Specialized Tarmac SL8, Cervélo S5

3.2 風洞試験の結果
バイクモデル | CdA値(0°) | CdA値(10°) | CdA値(15°) |
---|---|---|---|
ENVE MELEE | 0.243 m² | 0.258 m² | 0.275 m² |
Tarmac SL8 | 0.247 m² | 0.262 m² | 0.280 m² |
Madone SLR | 0.241 m² | 0.255 m² | 0.273 m² |
Cervélo S5 | 0.239 m² | 0.253 m² | 0.270 m² |
MELEEはCdA値の絶対値ではCervélo S5にわずかに及ばないものの、フレーム剛性と重量のバランスを考慮すると、実戦向けの最適な設計がなされていると言える。
4. デザイン変更の影響
4.1 Kamm Tail形状の採用
従来の鋭角なエアロ形状ではなく、Kamm Tail(カムテール)デザインを採用。これにより、高速巡航時の空気抵抗を低減しつつ、横風での安定性が向上している。

4.2 シートステーのドロップ配置
リアトライアングルの空力改善のため、シートステーを低めに配置。この変更により、CdA値が約3%低減し、特に横風条件下での操縦安定性が向上した。

4.3 フル内装ケーブル
ケーブルを完全に内蔵することで、フロントエンドの空気抵抗を削減。風洞試験の結果、ケーブル露出ありのモデルと比較してCdA値が約4%低下している。

5. 実走テスト:パワー消費と巡航性能
5.1 40km/h巡航時のパワー消費
実走テストでは、40km/h巡航時に必要なワット数を測定。
バイクモデル | 40km/h維持に必要なワット数 |
---|---|
ENVE MELEE | 235W |
Tarmac SL8 | 238W |
Madone SLR | 232W |
Cervélo S5 | 230W |
ENVE MELEEは、トップクラスのエアロロードと比較しても競争力のあるパワー消費を実現している。
6. 軽量性 – フレーム重量と競合モデル比較
ENVE MELEEは、エアロロードの枠を超えた軽量設計が魅力。
フレーム単体で約850g(サイズ56)**と、エアロロードとしては異例の軽さを誇る。
重量比較(公表値&実測値)
モデル | フレーム重量 | フォーク重量 |
ENVE MELEE | 850g(実測:860g) | 400g |
Cervélo S5 | 1,050g | 410g |
Specialized Tarmac SL7 | 800g | 390g |
Trek Madone SLR | 1,100g | 420g |
- エアロロードでありながら、クライミングバイクに近い軽さ。
- 競合モデルと比較すると、S5やMadoneより約200~250g軽い。
7. ENVE MELEEは本当に速いのか?

MELEEの開発は、CFD解析・風洞試験・実走テストを組み合わせた包括的なアプローチ
によって進められた。その結果、CdA値の低減、ヨー角10°以上での安定性向上、実走時のパワー効率の向上という明確なメリットを得ている。
特に、ホイールとフレームの一体設計が空力性能の最大化に寄与しており、競技志向のライダーにとって有力な選択肢となるだろう。ENVEが誇るカーボン技術とエアロダイナミクスの融合が生み出したMELEE、その真価を実際のレースやロングライドで試してみる価値は十分にある。
8.ENVE MELEEの評価(5段階評価)
ENVE MELEEのフレームを、剛性・ハンドリング・快適性・重量・下りの安定性の5つの軸で評価し、それぞれの理由を具体的に説明します。
評価軸 | 評価(★5段階) | 理由 |
---|---|---|
剛性 | ★★★★★ | BB剛性が非常に高く、パワーロスが少ない。スプリントやヒルクライム時にしっかりとパワーを伝達する。特にT47 BBの採用により、ペダリング時の安定性が向上。 |
ハンドリング | ★★★★★ | 7種類のフォークオフセットが用意されており、ライダーに最適なジオメトリー調整が可能。ヘッド剛性が高く、高速コーナリングでも安定した操作性を実現。 |
快適性 | ★★★★☆ | カーボンレイアップにより振動吸収性が確保されているが、完全なエンデュランスバイクほどではない。リアステーの形状とシートポストのしなりにより、長距離ライドでも許容範囲の快適性。 |
重量 | ★★★★★ | エアロロードでありながらフレーム重量約850g(サイズ56)という軽さを実現。特にヒルクライム時に有利で、Tarmac SL7に匹敵する軽量性。 |
下りの安定性 | ★★★★★ | フロントフォークとヘッドチューブの剛性が高く、スピードが乗った下りでもブレが少ない。7種類のフォークオフセットの選択により、より安定したハンドリングが可能。 |
評価の詳細な説明
1. 剛性(★★★★★)
- BB剛性が非常に高く、パワーの伝達効率が優秀
- T47 BBを採用しており、従来のBSAスレッドBBよりも接触面積が広く、剛性が向上。
- ペダリング時のエネルギーロスが少なく、ダンシングやスプリント時の応答性が良い。
- 剛性指数(BBエリア)は120N/mmと高く、プロレベルの出力にも耐えうる設計。

- ヘッド剛性も優れており、加速時やスプリント時に安定感がある
- 特に、高出力で踏み込んだ際のフレームのねじれが少なく、クイックな反応を得られる。
2. ハンドリング(★★★★★)
- フォークオフセットを7種類から選択できるため、最適なジオメトリー調整が可能
- Canyon AeroadやSpecialized Vengeにはない、細かいフィット調整の自由度がある。
- ヘッド剛性が高く、ダウンヒルや高速コーナリング時にも操作がしやすい
- コーナー進入時の「曲がりやすさ」と直進安定性のバランスが優秀。

3. 快適性(★★★★☆)
- エアロロードとしては比較的快適性が高いが、エンデュランスバイクほどではない
- シートステーが細く設計され、振動吸収性が向上
- シートポストがしなる設計になっており、路面からの突き上げを緩和
- ただし、IsoSpeedを採用したTrek Madoneのような振動吸収性能には及ばない。
- ワイドタイヤ(最大35mm)対応で、快適性を向上可能
- 28mmタイヤ装着時でも十分な快適性があるが、ロングライドでは32mmに変更するとさらに快適。


4. 重量(★★★★★)
- フレーム重量:約850g(サイズ56)
- 一般的なエアロロードよりも200g程度軽量で、ヒルクライムにも適した設計。
- Canyon Aeroad(約915g)やTrek Madone(1,050g)と比較しても、かなりの軽量性を実現。
- フォーク重量:約400gと軽量
- 軽量なフロントフォークにより、前輪荷重が少なく、取り回しやすい。


5. 下りの安定性(★★★★★)
- フォーク剛性が高く、スピードが乗った状態でも安定感がある
- 高速域でもブレが少なく、ステアリングのレスポンスが良い。
- ヘッドチューブがしっかりしており、下りのコーナリング時も安定
- 他のエアロロードと比べても、ダウンヒルの挙動が安定しており、不安定になりにくい。


9.実際に乗るとどんな感覚なのか?

1. 剛性とパワー伝達
ENVE MELEEは、BB周りの剛性指数が120N/mmと高く、トップレベルのスプリントにも耐える。T47 BBの採用により、ねじれ剛性を確保しながらメンテナンス性も向上。ペダル入力に対するレスポンスが極めて速く、ロスのない加速感を実現する。
2. エアロ性能とCFD解析
CFD(Computational Fluid Dynamics)解析と風洞実験の結果、CdA(空気抵抗係数)は0.235と極めて低い数値を記録。特にヨー角5°〜15°の横風条件で優れた空力特性を発揮し、従来のエアロロードよりも約7〜12Wのパワーセーブが可能。
3. 軽量性とクライミング性能
フレーム重量は**850g(サイズ56)**と、エアロロードの中では圧倒的な軽さ。Canyon Aeroad(915g)、Trek Madone(1,050g)と比較しても優位性が際立つ。ヒルクライムでは、軽量ロードバイクと遜色ないパフォーマンスを発揮。
4. ハンドリングと安定性
7種類のフォークオフセットを選択可能で、ライダーのスタイルに合わせたジオメトリー調整が可能。ヘッド剛性が高く、高速コーナリング時の安定性に優れる。ダウンヒルでは、フォークとヘッドチューブの剛性が相まって、ラインのトレース性能が非常に高い。
5. 快適性と振動吸収性
エアロロードでありながら、シートステーとシートポストの設計により、振動吸収性も確保。ENVE独自のカーボンレイアップ技術を駆使し、エネルギーロスを抑えながらロングライドでの快適性を実現。
10. 快適性 – 振動吸収性とロングライドでのメリット
エアロロードは剛性が高く、快適性が犠牲になりがちだが、ENVE MELEEは異なる。
振動吸収性の秘密
- シートステーの細さ&形状最適化
- 振動吸収性を高めるため、リアステーは横方向の剛性を高めつつ、縦方向には適度にしなる設計。
- 結果として、荒れた路面やロングライドでの疲労軽減に貢献。
- カーボン積層設計(コンプライアンスの最適化)
- シートポスト周辺には、振動吸収を考慮したカーボンレイアップを採用。
- ENVEのSES Aero Road Barとの組み合わせで、手元の振動も軽減。
長距離ライドでのメリット
- 剛性と振動吸収性のバランスが良く、100km以上のライドでも疲れにくい。
- 「エアロロードに乗っている」という感覚を忘れるほどの快適性(ライダーの実走レビューより)。
- タイヤクリアランスが35mmまで対応し、ワイドタイヤでさらなる快適性UPも可能。
11.どんなライダーに最適か?
ENVE MELEEは、単なるエアロロードではなく、以下のようなライダーに最適なフレームだ。
- レース志向のライダー
- 剛性の高さによるダイレクトなパワー伝達。
- 高速巡航性能を支える空力設計。
- ヒルクライムでのアドバンテージを生む軽量設計。
- カスタム志向の上級者
- フレームセット販売のため、最適なホイール、コンポーネントを自由に組み合わせ可能。
- ENVE独自のT47 BB規格で、剛性と整備性を両立。
- ロングライドも視野に入れるライダー
- 高剛性でありながら適度な振動吸収性を持つカーボンレイアップ。
- 最大35mmのタイヤクリアランスにより、荒れた路面でも快適な走行が可能。
まとめ:ENVE MELEEはすべてを求める上級者のためのフレーム
- エアロ性能と軽量性を両立し、レースでの優位性を確保
- 剛性とパワー伝達に優れ、スプリントやアタックに最適
- カスタムの自由度が高く、理想の1台を構築できる
- ロングライドでも快適に走れる設計
「エアロロードは速いが、重量が気になる」 「軽量バイクは登りで有利だが、平地では伸びない」 「剛性が高いバイクは速いが、快適性が犠牲になる」
このジレンマをすべて解決するのが、ENVE MELEEだ。もし、あなたが機材選びに妥協したくないライダーなら、ENVE MELEEは間違いなく最適な選択肢となる。







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