1. 導入:ロードバイク界におけるブレーキシステムの進化
ロードバイクのブレーキシステムはここ数年で大きく変化し、ディスクブレーキが主流となりつつあります。UCIが2018年にディスクブレーキを正式に承認して以来、ワールドツアーチームの多くが採用を進め、現在ではプロレースのほぼすべてのバイクがディスクブレーキに移行しています。
しかし、リムブレーキも依然として一部のトップ選手に支持されており、特にヒルクライマーや重量を気にするライダーにとっては今なお魅力的な選択肢です。本記事では、リムブレーキとディスクブレーキの特性を詳しく比較し、どちらがあなたの用途に適しているかを解説します。
2. リムブレーキの強みと弱点

強み
- 軽量性:ディスクブレーキに比べて約200~300g軽量。リムブレーキ仕様のバイクは6.5kg以下の超軽量モデルも可能であり、特にヒルクライムでのアドバンテージが大きい。
- 空力性能:キャリパーブレーキはフレームとホイールの設計自由度が高く、前面投影面積が少ないため、空気抵抗を最小限に抑えやすい。
- メンテナンスの容易さ:シンプルな構造で、ブレーキシューの交換のみで長く使える。トラブル時の調整も容易で、レース現場での素早い修理が可能。
- ホイールの選択肢が広い:リムブレーキ用のホイールはディスクブレーキ用よりも軽量で、価格も比較的リーズナブル。
弱点
- 雨天時の制動力低下:特にカーボンリムでは、ウェット時に制動距離が1.5倍以上になることがあり、初動の制動力も低下。
- 長時間のブレーキングによるリムの摩耗:リムブレーキでは高負荷のダウンヒルでリム温度が100℃以上に上昇し、カーボンリムの変形リスクがある。
- 集団走行時の制動力不足:レースでは制動力の差が事故につながる可能性があり、ディスクブレーキの選手とのブレーキ性能の違いが混走時に影響する。
3. ディスクブレーキの強みと弱点

強み
- 圧倒的な制動力:天候に関係なく安定した制動力を発揮し、ウェット時でもドライ時の90%以上の制動力を維持。
- 安全性の向上:ブレーキの効きがよいため、急なブレーキングでもコントロールしやすく、ダウンヒルやテクニカルなコースでの安定感が抜群。
- ホイールの寿命が長い:リムブレーキのようにリムを摩耗させることがないため、カーボンホイールの寿命が2倍以上になるケースも。
- 最新のエアロ設計に対応:フレームやホイールがディスクブレーキ向けに最適化され、むしろエアロ効果が高まる場合もある。
弱点
- 重量増:システム全体で約200~400gの重量増加があり、特にヒルクライムでは不利に働くことがある。
- メンテナンスの複雑さ:オイル交換やローター調整が必要で、ブリーディング作業などの専門知識が求められる。
- ホイールの互換性が制限される:12mmスルーアクスル規格が一般的になり、従来のリムブレーキ用ホイールとの互換性がない。
- 初期コストが高い:ディスクブレーキ対応バイクやホイールの価格が高く、システム全体のコストが増大する。
4. レース・シチュエーション別の適正
シチュエーション | リムブレーキ | ディスクブレーキ |
---|---|---|
ヒルクライム | ◎ 軽量性を活かせる (200gの差は上りで1~2Wの省エネに直結) | ○ 制動力が安定 (長いダウンヒルでも熱の影響が少ない) |
クリテリウム | ◎ 軽快な加速 (ホイールが軽く、瞬時のスプリントに有利) | ○ 連続ブレーキング対応可 (急ブレーキ時の安定性が高い) |
ロングライド | ○ シンプルなメンテ (出先でも調整可能) | ◎ 疲労軽減効果あり (少ない力で制動可能) |
エアロロード | ◎ 空力的に有利 (前面投影面積が少なく、速度維持に有効) | ○ フレーム剛性が高い (パワーロスを抑え、安定性向上) |
5. 実際のプロ選手の選択
リムブレーキ派の選手

- Tadej Pogačar (UAE Team Emirates):2020年のツール・ド・フランス優勝時にリムブレーキのColnago V3-RSを使用。
- Primož Roglič (Jumbo-Visma):軽量なバイクを好み、リムブレーキの選択を続ける場面も。
Tadej PogačarやPrimož Rogličがリムブレーキのバイクを選択した理由は、主に以下の要素が影響していると考えられます。
1. 軽量性のアドバンテージ
リムブレーキの最大のメリットは、ディスクブレーキよりも軽量であること。
特に、クライマーにとって登坂時の重量は大きな影響を与えるため、少しでも軽い機材を選ぶのは合理的な選択。
例:
- ディスクブレーキのシステムは、ブレーキキャリパー、ローター、油圧機構などが加わるため、リムブレーキよりも約300~500g重い。
- 2020年のツール・ド・フランスでは、PogačarはリムブレーキのColnago V3-RSを選択。
これは超軽量なバイクで、特に山岳ステージでの登坂能力を最大限に活かすためだった。
2. 剛性と反応性の違い
リムブレーキ仕様のバイクは、ディスクブレーキ仕様と比べてフォークやリアトライアングルの設計が異なる。
ディスクブレーキバイクはブレーキ負荷を支えるためにフレームが強化され、剛性が増すが、その分乗り味が硬くなることがある。
特に、リムブレーキ仕様のバイクはフレーム設計の自由度が高く、よりダイレクトなペダリングフィールや、しなやかな乗り味が得られる点が魅力。
3. 慣れと操作性
プロ選手は長年リムブレーキの操作感に慣れているため、
「ブレーキングの感覚が掴みやすい」「レース中に急な操作変更をする必要がない」といった理由でリムを選ぶこともある。
特にPrimož Rogličは、もともとスキー・ジャンプの競技経験を持ち、直感的な機材の操作性を重視する傾向が強い。
彼が軽量なリムブレーキバイクを好んだのは、余計な重量を増やさず、コントロールしやすい機材を求めたためとも言える。
4. 当時のチームの機材選択
2020年のツール時点では、ColnagoやJumbo-Vismaのバイク供給状況も関係していた可能性がある。
- UAE Team EmiratesはColnago V3-RSのリムブレーキ仕様をPogačar用に用意し、彼の希望に沿った最軽量仕様を提供。
- Jumbo-Vismaも、超軽量なバイクを求めるクライマー向けにリムブレーキモデルを残していた。
近年はディスクブレーキが主流になりつつあるが、当時はまだリムブレーキとディスクブレーキの両方が選択肢にあり、
軽量性を重視するクライマーにとっては、リムブレーキが最適な選択肢だった。
結論
PogačarやRogličがリムブレーキを選んだ理由は、
✅ 軽量性(登坂での優位性)
✅ フレームの剛性やレスポンスの違い
✅ 操作性の慣れ
✅ チームのバイク供給状況
が絡み合った結果。
特に、ツール・ド・フランスのような総合争いのレースでは、山岳ステージでのアドバンテージが重要。
そのため、リムブレーキの「軽さ」という強みを活かしていたわけです。
ただし、近年はほぼすべてのワールドツアーチームがディスクブレーキに移行しており、
2024年現在ではリムブレーキを採用する選手はほぼいなくなっています。
ディスクブレーキ派の選手


- Wout van Aert (Jumbo-Visma):ディスクブレーキの優れた制動力を活かし、クラシックレースやスプリントで安定した走りを披露。
- Mathieu van der Poel (Alpecin-Deceuninck):シクロクロス出身の彼は、オールウェザーでの安定性を重視し、ディスクブレーキを選択。
Wout van AertやMathieu van der Poelがディスクブレーキを選択した理由は、主に以下のポイントに集約されます。
1. 制動力の向上(特に悪天候での安定性)
ディスクブレーキの最大のメリットは、リムブレーキと比べて強力で安定した制動力が得られること。
これは、クラシックレースやスプリント、オールウェザーの環境では大きなアドバンテージになる。
- Wout van Aertは、パヴェ(石畳)や雨の中でのブレーキング性能を重視。
- 例えば、パリ〜ルーベやツール・デ・フランドルなどのクラシックレースでは、泥や砂利でリムが汚れやすく、リムブレーキの制動力が落ちやすい。
- ディスクブレーキならば、泥や水に関係なく安定した制動力を発揮できる。
- Mathieu van der Poelは、シクロクロス出身という背景もあり、どんな天候でも確実に止まれるディスクブレーキのメリットを熟知。
- シクロクロスでは泥まみれになることが前提であり、リムブレーキでは制動力が不安定になりやすい。
- その経験から、ロードレースでもディスクブレーキを選択している。
2. より短い制動距離で安全性アップ
ディスクブレーキは、より少ない力で強力なブレーキ性能を発揮するため、高速スプリントやダウンヒルでの安全性が向上する。
- Wout van Aertのスプリント時のブレーキング
- スプリントの際、高速域から短い距離で確実に減速できることは非常に重要。
- ディスクブレーキならば、リムブレーキのように握力を強く使わなくても安定して減速できるため、フィニッシュ直前までパワーを温存可能。
- Mathieu van der Poelのアタック時のコーナリング
- アグレッシブな走りを得意とする彼は、コーナーへの突っ込みやブレーキングで最大限のパフォーマンスを発揮するためにディスクを選択。
- 特に雨天時のスリッピーな状況でも、強力なブレーキによって安定したハンドリングが可能。
3. 高速域での剛性と安定性
ディスクブレーキ仕様のフレームは、一般的に剛性が高く、剛性感のある乗り味になる。
これが、パワーライダーにとってはむしろメリットになるケースがある。
- Wout van Aertのようなパワースプリンターには最適

- 横剛性が高いバイク=スプリント時のパワーを最大限に活かせる
- ディスクブレーキ仕様のフレームは、ブレーキング時のたわみが少なく、安定感のあるコントロールが可能
- 高速ダウンヒルでも、フレームが安定していてブレーキを強くかけてもバイクがぶれにくい。
- Mathieu van der Poelのオールラウンドな走りにも合う

- クラシックレースやシクロクロスにおいて、ディスクブレーキの剛性と安定性は激しいアタックやハードなレース展開に対応しやすい。
4. エアロ性能との両立
近年のディスクブレーキロードバイクは、空力性能も考慮された設計になっている。
- ディスクブレーキ化により、リムの形状に自由度が生まれ、エアロ効果を最大化できる。
- リムブレーキでは、ブレーキ面を作る必要があるため、リムの設計が制限される。
- ディスクブレーキならば、完全に空力性能を優先したリム設計が可能になる。
- そのため、エアロロードを選択するライダーは、ディスクブレーキとの相性が良い。
- Wout van AertのCervélo S5(エアロロード)
- Mathieu van der PoelのCanyon Aeroad(エアロロード)
どちらもディスクブレーキ仕様で、最高速を活かしながら安全に止まれる設計になっている。
5. ホイールの選択肢が豊富
近年、高性能なカーボンホイールの主流がディスクブレーキにシフトしており、
プロレベルではリムブレーキ用の最新ホイールがほとんど供給されなくなっている。
- 特にチーム供給のホイール選択肢がディスクに偏る
- Wout van AertやMathieu van der Poelのようなトップライダーは、最新の機材を使うことが求められる。
- ディスクブレーキならば、新しいホイールテクノロジーの恩恵を受けやすい。
6. どちらを選ぶべきか?
リムブレーキが向いているライダー

- 軽量なバイクで登りを重視したいヒルクライマー。
- シンプルな構造でメンテナンス性を重視するライダー。
- タイムトライアルやトラックレースでエアロ性能を最優先するライダー。
ディスクブレーキが向いているライダー

- レースで安定した制動力を求めるライダー。
- ダウンヒルや悪天候での走行が多いライダー。
- フレーム剛性や最新技術を活かしたエアロロードを求めるライダー。
7. まとめ
結論として、どちらが優れているかは用途次第です。
- ヒルクライマーなら軽量なリムブレーキ。
- レース志向のライダーなら安全性を考慮してディスクブレーキ。
- エアロロードを重視するなら最新のディスクブレーキモデルも選択肢。
上級者だからこそ、自分の走りに合った最適なブレーキシステムを選び、パフォーマンスを最大限に引き出しましょう!


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